業務効率化コンサルティング会社の株式会社Grantが、社員全員にAIエージェント「Claude Code」を配布し、現場のマネージャーが自ら業務ツールを内製する「全員が開発者」体制を2026年6月までに構築すると、同社の発表で明らかになった。プログラミング未経験の社員がAIとの対話だけで業務アプリを作り出すこの取り組みは、年単位の研修を前提としてきた従来のDX人材育成論に対する一つの応答として注目される。
ただし、この事例を「AIで一気にリスキリングが進む証左」と読むのは早計である。現場社員が業務アプリを内製する流れは10年以上前から続いており、今回の発表は、その潮流の最新章として位置づけたほうが、構造を正しく捉えられる。
「現場が作る」という発想は、10年前から積み上がってきた
Grant社のリリースには次のようにある。
要件定義から実装までを現場が完結させるこの構図は、確かに従来のシステム開発と質を異にする。情シスや外部ベンダーへの要件伝達で発生していた「翻訳工程」を省略できれば、現場の課題感が劣化せずにツールに反映される。同社の発表によれば、メンタルヘルス早期検知や問い合わせ自動起票など7種のツールが順次稼働中という。
ただし、ここで一度立ち止まる必要がある。「現場が業務アプリを作る」という発想自体は、生成AI登場以前から商用化されている。サイボウズが提供するノーコード/ローコード基盤の「kintone」は導入実績30,000社を超え、京王グループや日清食品グループ、ヤマハ発動機など、業種を問わず広く現場主導開発の事例を生んできた。京王グループでは情シス部門が現場の悩みを聞きながら対面でアプリを構築し、その過程で「自分たちでも作ってみたい」という機運が醸成されたと報じられている。
製造業の事例ではさらに具体的な成果が出ている。インキ・ファインケミカル大手のartience(旧東洋インキSCホールディングス)では、事業本部260名が約90のアプリを非エンジニアメンバーが自ら作成・運用し、特殊な請求処理アプリの開発で経理部門の工数を92%削減している。同社は「アンバサダー制度」で活用ノウハウを社内共有し、全社員が開発者となる文化を組織的に育てている。
この10年の蓄積を踏まえると、Grant社の取り組みは「現場主導開発」という長い文脈の延長線上にある。AIエージェントの新規性は、kintoneのようなGUI操作すら不要になり、自然言語の対話だけでツールが立ち上がる点にある。コーディング知識のハードルが、また一段下がったというアップデートとして読むのが正確だろう。